みち草

2004年からはてなぶろぐを書いています。このぶろぐでは日常の身辺雑記中心に書きます。

Mitiおばさん 国勢調査員に応募する  

 国勢調査員 募集してる

夏ごろ「国勢調査 調査員募集、平均報酬約7万円」という広報の記事に目が止まる。コロナウィルスの影響で、調査員の辞退が相つぎ、なり手がいないらしく、何度か募集をかけている。

国民年金に少し厚生年金が載っかった程度の年金で暮らす私。事務能力に欠けるけど、できるかな。困った時に相談できるよう、友達を誘い調査員に応募した。面接もなく書類手続きだけで採用の通知が届く。

 9月下旬、国勢調査員の説明会が開かれた。会場に定刻前に着くと、説明会場の隅で、職員たちが「調査員七つ道具」の袋詰め作業に追われている。役所内は予期しないコロナウィルス禍関連の仕事が増えてか大忙しの様子。この七つ道具の中には筆記用鉛筆の他、ライト付きのホィッスルなど便利なものが入っていた。検温機でピッピツと額の体温を測られ、私は一番前の席に座る。

市役所の若い男性職員2人が着席し、分厚い国勢調査のテキストを読みながら説明する。ひたすら早口で読み、2時間枠なのに1時間半で終わる。残りの時間で質問を受けるのかと思ったらそれもなし。

友達は別の日の説明会に出たが、質問は受けないといわれたと不満の口ぶりだった。もっともテキストを通しで読まれても、未経験者は何を質問してよいかさえわからない。経験を積んだ年配の職員から国勢調査のキモ、ここに注意しろというアドバイスが欲しかった。

テキストの他にDVDもあるので、何とかなるだろう。「調査員七つ道具」とテキストの入った袋を下げて帰る。しかし数日後に、これが甘い考えであることがわかった。自宅に大きなダンボール箱に、ぎっしり詰まった調査用紙及び関係書類が届く。私の受け持ち区域は集合住宅三棟分で130数世帯ある。

区画のおおまかな図と建物は外枠だけの白地図、居住者の名前はない。配布する調査用紙の入った大きな封筒も宛先の名前がない。まずは世帯主名と家族数4名以上は調査用紙を追加しなければならないので、その二点を把握しなければならない。

頼みのDVDを再生すると、テキストをなぞってあるだけで、こちらの知りたいことを教えてくれるわけではない。しかも説明のバックに流れる音楽がやたら大きくて、言葉がよく聞き取れない。私の耳が悪いせいかとパソコン・サポートの人に聴いてもらったが、「これはひどい」「でしょう? 総務省が発注したDVDですよ」。

全国の国勢調査員約70万人に配られたDVD、どういう会社が制作し、どの位の金額で発注したのか知りたいものだ。

 

国勢調査員スタート 数ヶ月の特別公務員! 

国勢調査員という腕章を腕にはめ、写真入りの調査員証を首から下げる。総務省の高市大臣から届いた辞令には、身分は特別公務員となっている。

国勢調査と名入りの袋を肩に、いざ出発。古い住居者名簿を手に、集合住宅のドアの上にある表札をチェック。表札に名前を出していない人が多いので、世帯主名を聞こうとするが、不在または居留守が多い。ドアをノックして国勢調査員です。と名のっても、個人情報に敏感なご時世、そう簡単にドアを開けてくれない。だんだん自分の顔がこわばってくるのがわかり、すごすごと自宅に戻る日が続く。

 残暑の残る午後ドアをノックし、「国勢調査員です」と名のると、さっとドアが開いた。開けてくれたのは、上半身裸の50代くらいの男性。後ろ向きになった拍子に、肩から腕に広がる入れ墨が目に入る。一瞬ドキッとしたが、世帯主名と家族数を聞くと、きちんと答えてくださった。調査用紙一式を手渡し、インターネットで回答するか、郵送で送ってくださいと伝える。

昔よく観た任侠映画の高倉健さんの入れ墨は撮影用に描いたものだが、あの男性の見事な入れ墨は彫ったものだろうか。男性で国勢調査員にスムーズに応対してくれる人は稀だ。任侠映画の主人公の潔さと重ね合わせ、さわやかな印象が残った。

別の棟で私は、最初に配る調査用紙の入った大きな袋を隣室の方の分と間違えて渡してしまった。すぐに気がついてくださって、呼び止められた。ひらに謝って交換してもらったが、その年配の男性から「あなたみたいな人は調査員をする資格がない。やめた方がいい」と、大声で叱られた。「申し分けありません」と謝っても怒りはなかなか治らない。この仕事を安易に受けたことを後悔した。

 その後数日間気持ちがへこみ、不整脈は出るし、外に出る気にならなかった。後に調査用紙の入った大きな袋のわきに、鉛筆書きで名前を記入しておくと、間違え防止に役立つことを知る。「国勢調査説明会」で、これを強調して頭にインプットしてくれたら間違いも防げ、効率的に進んだものを。

 知人らに聞いたところ、自治体によっては郵便受けに調査用紙が投函されていて、調査員とインターホンで話すことも、顔をあわせることもなく、郵送して終わりというところもあるようだ。

今年度の国勢調査はコロナウィルス感染防止のため、対面は避けてインターホンで話し、ネット回答か、できるだけ郵送を勧めるよう指示されている。しかし・・・。

私の担当地域は一人暮らし高齢者が多い。70.80代が多く住み、耳、目、手足が不自由になっている人が少なくない。指に力が入らない人、手が震えて書けない人もいる。ドア越しにインターホンでやりとりしていては仕事にならない。

国勢調査の回答締め切りが近づき、催促のチラシを入れても未回収のままの世帯を訪問する。ドアを開けてもらうと、乱雑に物や書類が積み重なり、足の踏み場もない。その一人暮らし高齢男性はマスクなしで、手にしているのは調査用紙の大きな外袋。かんじんの調査回答用紙はどこにいったかわからないし、探しようもない。

ドアを開け放ち、入り口たたきに立ち、手持ちの予備の調査用紙に、一つ一つ聴き取りしながら代筆し、相手の了解を得て目の前で封筒に入れて封をし、郵便ポストに投函する。

国勢調査も終盤に 

国勢調査の回収率が低いということで、国勢調査の意義や、調査員の苦労が報道されたせいか、「ご苦労さまです」とねぎらいの言葉をかけられることが増えた気がする。

何回訪問しても、会えずに回収できなかったケースもあったが、締め切り日には調査結果の報告書と必要書類をまとめて役所の担当所管まで届けなくてはならない。調査拒否や居留守を通す人は、最終的に役所職員が対応するそうだ。

10月下旬、調査報告書を役所に提出する日がやってきた。おそるおそる女性の担当者と机に向かい合って座る。報告書を並べ、チェックが始まる。不備なところを指摘され直す。

調査項目と内容を目で追いながら「よくここまでやってくださいましたね。大変だったでしょう。助かります」といわれる。思いがけない言葉にぽかんとし、同時に気が抜けた。

そこまでやることはなかったのか。会えない人には朝夕時間帯を変えて何度も訪問し、手が震えて書けないという高齢者の代筆もした。

友達など、若い人の多いマンション担当だったので、夜討ち朝駆けで訪問し、個人情報云々と論争をふっかけられながらもめげずにやり通した。

 11月下旬に国勢調査員としての報酬77,700円が口座に振り込まれる。友達から「あなたが誘って下さったおかげで77,000円もらえたわ。ありがとう」とお礼をいわれる。私も彼女にグチを聞いてもらい助けられた。大変なこともあったが、終わって見れば、いろいろな人に会え、世の中の勉強ができてよかった。

 ※ 5年後の国勢調査はいかに?

報道によると2020年度の国勢調査まとめでは、国勢調査にかかる総費用は650億円とか。そのほとんどは国勢調査員の費用だそうだ。5年後の国勢調査時は、個人情報の取り扱い上、今のような国勢調査員を使った調査のやり方ができるのか。

マイナンバー制度や全国民への一律10万円給付などにより、各自治体には住民の個人情報が今までになく集まっているはず。AIを駆使し個人情報を役所全体で共有すれば、これほどの費用をかけずに国勢調査ができるのではないかと思う。