みち草

2004年からはてなぶろぐを書いています。このぶろぐでは日常の身辺雑記中心に書きます。

105歳の婆様

 昨日、介護保険でトイレと浴室に手すりを取り付けたいという利用者のお宅を、設計担当の若い女性と訪問した。
 浴槽の上の壁に縦型の手すりをつけたいという利用者に、立ち座り、座位の安定のためにL型の方が使いやすいと説明しはじめたら、「自分がそうしたいんだから、いいんだ」と大声で制する。1週間の間に、いったい何人が怒鳴られたか、専門家の説明を聞こうとしない。昔、ちっとばかしえらかった男性の利用者・家族に、得てしてこういうタイプが少なくない。
 介護保険という公的なお金を使うから、なぜその場所に、どういう種類の手すりが必要か、本人の障害の状態をあわせて、理由を書いて申請しないとならないのだが、先が思いやられる。

 次の仕事は、有料老人ホームに入所している婆様の認定調査だ。105歳というから、管につながれて動けない人かしらと思っていたら、ティルームのソファにチョコンと座っていらした。
 職員が自室に手引きで誘導するが、自分の足で歩ける。耳が遠く、大きな声で質問しなければならないが、ユーモラスでかわいい婆様だ。
 「△▽区役所から頼まれて認定調査に来ました」。と挨拶する。区役所、調査ということばに反応し、婆様の表情が一瞬固くなった様に見えた。認知機能の項目で生年月日を尋ねると、ちゃんと明治38年何月何日生まれと正確に答えられた。何歳ですかと聞くと年齢は答えられない。職員が、105歳でしょ。と言うが、本人はだんまり。そんなに歳を取ったと思っていないのだ。
 途中調査に飽きて、タンスを開けてネックレスをいじり始める。何とか、規定の項目を調査し終え、「これで認定調査は終わりました。長い時間お疲れ様でした」と声をかけると、すかさず「尋問が済みました」と婆様。若い職員が弾けるように笑う。「00さんはいつもこういうジョークをいうので、人気があるんです」。明治生まれの女性なのに大学を出ている。時折、英語の歌を口ずさむことがあると職員から聞いた。どういう人生を送られた人なのだろう。
 ティルームに戻る婆様をみなさんがにこにこして迎える。施設内の雰囲気がなごやかで、職員も自然体の笑顔。こちらも笑顔で施設を後にする。この婆様に会えたことで、私の宝物のコレクションが一つ増えた。