みち草

2004年からはてなぶろぐを書いています。このぶろぐでは日常の身辺雑記中心に書きます。

 未破裂動脈瘤の手術(コイル塞栓術)を受けるにあたって、体験者の情報を知りたかった。
検索すると病院や医師による手術についての情報は多いのだが、体験者による情報は少なく、あっても古かったりする。たぶん私と同じ思いを抱いている人も多いと思う。 
 未破裂動脈瘤の手術が済んで2日目、点滴台を転がしながら、病棟ロビーにお茶を汲みに行ったら、娘と変わらない年頃の女性に話しかけられた。医師から手術をすすめられ未破裂動脈瘤のカテーテル検査のため入院中の人。それまで人から「健康でいいわね」と言われていたのに、ショックで気持ち的に受け入れられないという。でも手術後の私が元気そうなのを見て安心したといわれる。

 開頭手術によるクリッピングと血管内治療によるコイル塞栓術、どちらもリスクがあるのは変わりがない。開頭クリッピング手術だったら、頭が腫れて痛み、ベッドから起き上がれなかったろう。頭蓋骨を持ち上げて手術することによる視神経などに触るリスクなどもあるらしいが、放射線被爆の影響はないだろう。どちらにしろ百パーセント安全の手術はあり得ないというので、リスクを少しでも減らすために腕の良い医師を探すことになる。

 コイル塞栓術の場合は入院期間が短く回復が早いが、かなりの放射線を浴びる。医師にその不安を言っても、あまり真剣に応えてもらえない。しかし、半分くらいの人に脱毛が見られ、また10年後に癌に罹る率が高いなど、手術を受ける当人にしてみれば不安が残る。くも膜下出血で死んだり、半身不随になるリスクと比較してどっちを取るか、選択をせざるをえない。
 
4年前別の病気で脳のMRIを撮り、動脈瘤の卵らしきものがあるから、年に一度検査したほうがよいといわれた。私は血圧が低めで安定していたので、ただ検査して経過観察をしていればよいのだろうと軽く考えていた。一年後に脳神経外科でMRIを撮ったら、6ミリといわれ、経過を見るか手術か選択するのは本人といわれた。半年後に再検査を受けたが、担当医師が若く、手術をしたくてたまらないという感じのタイプ。他の方法も調べようと思い、インターネット、図書館の本、新聞などから脳血管内治療・コイル塞栓術を知り、その分野で実績のある病院に診察を申し込んだ。2年ほど経過観察したが、一人暮らしであることと、加齢とともに血管の状態が低下し、手術してもらえなくなる恐れもあり、手術を決断したのである。

 私の場合、内径動脈にある動脈瘤は大きさは5ミリ(前の病院では6ミリ台といわれた)、形がいびつで一辺が尖がっているので、どちらかというと破裂しやすいタイプだ。そしてネックがやや広いので、コイルが出てきてしまう可能性もある。というわけで手術実績があり、ベテランの医師にお願いしたいと思った。誰しも考えることは同じである。

 手術当日 私が一番目、朝8時までに手術室に入るのである。5時に目が覚めたが、食事も水分も取れないので、いつものように体操をして手術に備える。手術予備室に入ったら、まだ一歳にならないような女児が小さな手術着を着て、おしゃぶりを手にお座りしていた。人見知りをしないで手術着の医師や看護師に囲まれ、無邪気に笑っている。あんなに小さな子が手術を受けるのだから、しっかりしなくちゃ。

 ふつう脳や心臓などの手術の場合、家族が手術する医師と顔を合わせ、「よろしくお願いします」と挨拶し、手術が済むまで待機する。手術中に何が起きるかわからないから、家族に判断を求める場合もあるので、医師からも看護師からも念を押された。だが娘は朝に弱く、前日仕事が夜9時までなので難しい。医師に娘は病院に向かっていますので、進めてくださいとお願いし、手術台に上がる。全身麻酔なのですぐ何もわからなくなった。

 名前を呼ばれ、「手術が成功しましたよ」という医師の声を聴き、手術が終わったのを知る。良かった〜。医師が笑顔で「1時間50分でした」というのを聴いて、予定時間内に終わったことを知り安堵する。医師が神様に見えた。娘は案のじょう手術が済んだ頃に着いたらしい。何事もなくてよかった。

 手術後は集中治療室(ICU)に移され、一晩過ごす。翌日何でもなければ一般病棟に戻る。ICUってどんなところだろうと興味があったが、殺風景な部屋で一人ぼっち、両腕に点滴やら管やらつけられ、動くことを禁じられる。
 カテーテルを入れるため切開した鼠蹊部を止血しているが、血液をさらさらにする薬が処方されているため、出血しやすいのである。この身動きできない状態はかなりきつかった。頭部の重たい違和感、胃がムカムカする。全身麻酔のせいかと考えたが、後で放射線の影響で吐き気が起きると書いてあるのを見つけた。
 全身麻酔の時、人工呼吸器が付けられていたらしく、のどがちくちくいがらっぽい。唾か痰のようなものが口の中にたまる。看護師が一人で忙しそうなのでコールを鳴らさずに唇の外に舌で押し出す。とうとう耐えられなくなりコールを押して、テッッシュをそばに置いてもらった。うがいも頼んで口の中が苦いのが少し納まった。
 
 こういう時は遠慮しないで早めにナースコールを押した方がよい。地獄の苦しみも時間の経過とともに薄皮がはがれるように軽くなり、回復に向かっていることが感じられた。経過が順調ということで翌日午前10時過ぎだったか、一般病室に戻れた。自分の足でトイレに行き、夕食をしっかり食べられた。

 手術二日後MRIを撮り、コイルがちゃんと入っていることが確認され、医師から14日退院のOKが出る。でも10人に一人、再開通はあるといわれる。「えー!」と声をあげたら、医師は「(最初の手術よりも)簡単だよ」というが、もう放射線をこれ以上浴びたくない。
 私の場合、ネックが広めなのではみ出しやすいかも。コイルを瘤内にきっちり入れると破裂する恐れがある。その空き加減が難しいことは理解できる。
 
 手術後16日目の現在、お腹が空き、食欲がある。買い物をに行き、娘の分まで惣菜を作り、軽い体操をして、毎日緑のカーテンの世話をする。疲れやすいので遠出はまだ無理、昼寝が欠かせない。放射線の影響は短期と長期的なものがあり、短期的には皮膚や目の乾燥などがある。私はもともとドライアイ・マウス症なので、目薬をさし、保湿ケアも欠かせない。脱毛は今のところ見られない。 
 12月に外来受診、来年1月、半年後と定期的にMRI撮影し、状態をチェックしなくてはならない。医療の分野は治療法の改良が、目まぐるしいほどに進んでいるから、その内もっと身体に優しい手術法、治療が開発されることを期待したい。