みち草

2004年からはてなぶろぐを書いています。このぶろぐでは日常の身辺雑記中心に書きます。

霧雨のまちで

霧雨が降ったりやんだりしていた日。
方向音痴の私は、初めての家を訪問する時は

住宅地図をコピーし、順路をマークして行くことにしている。幹線道路からの経路

を何枚かコピーし、つなげるのだが、その日は手抜きしてその部分だけの地図しか

作らなかった。
自転車で行ってみると番地が飛んでいて、細い路地は迷路だった。同じ場所をぐる

ぐる廻っているうちに、約束の時間は過ぎ、頭はパニック状態。交番はないし、道

行く人に聞いてもわからない。
泣きそうな目に、若い郵便配達の男性がアパートのポストに郵便物を入れているの

がうつった。「道を教えてください」と声を掛けて番地を告げたら、彼は「〇〇さ

んでしょう」。と、そこの道を左に行って、・・・と道順を説明したが、「やっぱ

り、わからないだろうな。ちょっと待って」と郵便物を配布し終え、バイクで先導

して連れて行ってくれた。地獄で仏とはこのことだ。


私のたずね人は古い一軒家の前で、今か今かと待っていた。郵便やさんはオバーサ

ンと顔見知りらしく、親しげに言葉を交わし、私を振り返り、郵便物の一杯詰まっ

た荷台のまま、走り去った。

オバーサンの家は昔風のガラス格子の引き戸。玄関を入るとコンクリートの土間に

なっている。縁側があるので、靴を脱がずにそこに腰を下ろして話すことができる

。オバーサンは膝が悪いらしく杖にすがってよろよろ移動した。
「あの子、四月から働き出したんだけど、いつも疲れているみたいなんで、続くか

どうか気になって。ここに座らして、おやつあげたんだよ」。
近所の郵便配達夫が、郵政公社になってから時間に余裕がなくなったといっていた

。慣れない迷路のような都会で郵便配達の仕事をするのは大変だろうな。でも今は

私のように困っている者を案内してくれる余裕もできたと見える。

オバーサンは夫の親と夫を順に介護し、看取った。「腰と膝が痛くて、こんなにな

ってしまったよ」。
要介護の認定は受けているが、介護保険サービスは利用していない。
「昨日、〔クローズアップ現代〕でもやっていたけど、使えるサービスがないんだ

よ」。オバーサンの使いたいサービスは半日の通所リハビリと掃除。通所リハビリ

は半日だとほとんど送迎がないから通えない。掃除は娘(勤めている)と同居のため

、掃除や買い物は介護保険ではできない。それでも杖をつきながらも買い物に出れ

ば、知った人とおしゃべりできる。「家の中に引きこもっていたらいけないでしょ

う?」


そういえば下北沢のまちにも郵便やさんや、いろいろな人が羽を休める場所になっ

ていたオバーサンの家があった。木の玄関に時代もののステンドグラスがはまって

いる古い家だった。昨年だったか亡くなったという噂を聞いたが。
若者だけ老人だけが固まっている場所は気持ち悪い。老人も若者も勝手に生きてい

て、どこかで混ざっているまちはいい。そこはなぜか路地裏が残っていたり迷路っ

ぽかったりして。下北沢もそういうまちだった。もうしばらく行ってないけど。